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荒戸源次郎監督 『赤目四十八瀧心中未遂』 鑑賞

荒戸源次郎監督 『赤目四十八瀧心中未遂』 鑑賞_e0208346_12523161.jpg
昨晩見た映画について書く。 私の「いきつけ」の映画館、東中野ポレポレ座に向かった。 『赤目四十八瀧心中未遂』を鑑賞。 本作品、2003年に初公開されたもの。この度、一週間限りの復活上映ということになった。 監督: 荒戸源次郎 出演: 大西滝次郎 寺島しのぶ 大楠道代 内田裕也 麿赤兒 内田春菊 etc. 大西演ずる暗く無口な青年生島。己を捨てたかのような澱んだ雰囲気の中で、目だけはかろうじて純真さを失ってはいないようだ。彼は有名大学を中退し、釜ヶ崎から尼(あま=尼崎)へ移ってきた。知人の紹介で、とあるホルモン焼き屋のおかみ(大楠道代)雇ってもらうことになる。彼に与えられた仕事は、ひたすら臓物を刻み、串に指していくという単純作業。彼が、なぜ、有名大学を中退後、釜ヶ崎などへ身を寄せたのか、そして、なぜ尼崎へと流れ着くことになったのか。その経緯は語られない。尼崎の下町にあるボロアパートの一室。ホルモン屋のおかみが手配してくれた部屋。生島の作業場であり、かつ、寝泊りする場所となる小汚い一室。口数少なに黙々と作業する生島の前に次々と現れるキャラの濃い面々たち。醜い売春婦、向かいの部屋に住む、眼光鋭い謎めいた彫師(内田裕也)、在日朝鮮人チンピラの妹アヤ(寺島しのぶ)。雰囲気からして尼(尼崎)の下町という場にそぐわない生島の姿に、おかみ他生島アパートの隣人達は興味本位の頼みごとをして生島のことを試そうとする。多くを語らず、ボロアパートの中で黙々と作業に打ち込む生島が果たして信用に足る人間なのか否か。私心なく生真面目な大学出の生島に対して、周りは徐々に警戒心を解いていく、と同時に、生島のような人間はココ(尼)では生きてはいけないと皆口に出す。そんなある日、大学時代の友人が生島のもとを尋ねてくる。友人は生島を親身になって説得する。曰く、こんな場所でくすぶっている場合ではないと。編集者の友人は生島に再び「書く」ことを求める。彼らのやりとりを横目で見ていたおかみは、友人が去ったあと、生島を諭す。曰く、お前はココでは生きていけない。こんなところから出て行くべきだと。 物語は、在日朝鮮人チンピラの妹アヤとの急接近によって、急展開していく。ある晩、アヤが生島の部屋に上がってくる。いつもとは違いただならぬ様子のアヤ。アヤは下着を脱ぎはじめ、生島を誘う。妖艶なアヤに導かれるように生島はアヤと交わる。闇夜に怪しい光を放つアヤの背中。そこには迦陵頻伽の刺青が。その夜から数日間アヤは姿を見せることはなかった。黙々と串刺しの作業に打ち込む生島の部屋に突然おかみが入ってくる。アヤを見なかったかと。どうやらアヤをめぐって何らかの問題がおこっいるらしいのだが、おかみは、生島の知る必要のないことだと行って出て行く。夕方、部屋に戻った生島は、一枚の書置きを見つける。アヤからのものだった。午後12時か午後5時に天王寺駅で落ち合えないとの走り書き。生島は出て行く決心をする。アヤと落ち合うことのできた生島。アヤが抱え込んでいる問題を知るところになる。アヤの兄が問題を起こし、その収拾をつけるためには3000万の金が必要であるということ。それが無理であれば、アヤは博多に行かねばならなくなる(恐らく売り飛ばされること)。金も用意できず、アヤが博多行きを拒否すれば、兄はコンクリート詰めにされ、海に沈められることになる。そのような大金を用意できるわけもなく、されど、博多に売られに行くようなことも断固拒否したいアヤは死ぬ覚悟を決めていた。心を許せる生島を道ずれにして。「この世の外へ連れて行ってほしい」と生島に請う。こうして二人の心中への旅は始まる。 死に場所としてアヤが決めていた場所、赤目四十八瀧渓谷。休憩所での二人が食事するシーン。見詰め合う二人。鋭いアヤの眼差しが、怯えたような生島の目を捉える。アヤは生島が死ぬ覚悟などないことを見切る。真夏の渓谷を彷徨うに歩を進めていく二人。結局、アヤは生島との心中を諦めることとなる。尼崎へ戻る電車の中。うつらうつらし始める生島の隣で、アヤは博多行きを決心する。ある停車駅で電車の扉が開く。アヤは博多行きを決心したことを伝える。博多に行くために、京都行きの電車に乗り換えるというアヤ。まどろみから覚めた生島は突然のことに驚く。アヤを追うべく、急いでサンダルを履きなおし、飛び出そうとした瞬間、電車の扉は無情にも閉まってしまう。微笑を湛えたアヤ。ガラス窓越しに顔をくっつけ涙目で訴えるような表情の生島。一人無様に車中に取り残された生島を乗せた電車は何事もなかったかのように進んでいく。 不思議な作品だった。チラシを見ると公開当時の年の映画賞を総なめにしたとある。キャストが豪華である。本作品が映画初出演の大西は別として、寺島、大楠、内田裕也の三人が重要な役割を演じている。また、ちょい役で赤井英和や内田春菊、麿赤兒とその息子なんかも登場する。豪華なキャスト人の中でも、寺島の演技が特に光っていた。その背に迦陵頻伽の刺青を持つ妖艶な女性。チンピラの妹ということ、年老いた彫師と同棲しているということ以外、普段一体何をしているのか全く分からない。やがて彼女は、半分世捨て人のような生活を続けていた生島を至福の歓びへと誘う。そして心中の道へも誘っていく。「小悪魔的」という表現があるが、「小悪魔的」演技もさることながら、寺島は「大悪魔的」女性を演ずることのできる数少ない女優だと思う。絡みのシーンも堂々たるものだが、ちょっとしたシーン、日傘を指して路地を歩いていくシーンや、焼肉屋での食事のシーンなど見ても、キラリと光るものを感じた。顎を上に傾け、舌をだし、生レバーを飲み込むシーンなど、特に官能的。口元から頬を伝って垂れるごま油を手の甲で無造作にふき取る様なども、下町のチンピラの妹という役柄を考えての演出だが、うまい。 大楠道代もさすがベテランだけあって、安定した演技を見せている。関西の下町にいる抜け目ないヤリ手おかみという感じがうまく出ていた。内田裕也も独特の存在感を放っていた。しかし内田裕也って、なんであのように渋い役がピタリとはまって、圧倒的な存在感が出せるのだろう。不思議な人だ、彼は。『ロックンロール、よろしく』のイメージが強すぎるので、ここまで渋くキメられてしまうと、びっくりしてしまう。ただ、彼は意外に俳優歴は長いはず。音楽の方で、大成功を収めたという記憶はないような気はするが、脇を固める映画俳優としてはものすごく重宝されている人に違いない。 本作品、ラストは、主役の生島(大西演ずる)が車中に一人取り残される場面で終わるだが、彼は一体この後どうなるのかと、観る側に想像させずにはおかない。 私の読みというか、想像はこうだ。 彼は、尼(尼崎)を後にし、東京へ戻る。そして、以前、彼の住んでいた尼のボロアパートまではるばる訪ねてきた友人に会いにいくのである。 彼は過去の非礼を詫び、書かせて欲しいと頼み込む。 編集者の友人は生島の頼みを快諾する。 そして、生島は憑かれたかのように書き始める。
by GF777 | 2010-08-17 00:00 | 過去投稿記事の移行


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