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松尾スズキ著 『ぬるーい地獄の歩き方』

松尾スズキ著 『ぬるーい地獄の歩き方』_e0208346_21105696.jpg
タイトルに面白みを感じた。著者は、あの大人計画の松尾スズキだ。一体どのような内容なのだろうと思いつつ、手に取って目次を眺めた。

特殊業界の地獄ということで「子役」「昆布漁」という項目が。こ、こんぶ漁?? 中々着眼点がおもろいではないかと思いつつ、良く目次をみていると、他にも「痔」とか「つき人」などの項目が並ぶ。
興味本位で「まえがき」にざっと目を通してみた。著者は次のように述べている。

”世の中には「公然とつらがれない地獄」というものもあると思う。「甘えんじゃねえよ」という、なかなか発言の機会を得られない、いわば負け組の地獄、ぬるい地獄。この度、私はそういったぬるーい地獄に堕ちた人、あるいはぬるーい地獄の現場に立ち会っている人、そういう人にあっていろんな叫びを聞いた。聞いたら、なんだか、切なくて哀しくて、失礼だけどおもしろかった。”

”ぬるーい地獄で喘いでいる「負け組」の叫び”、何だかバカっぽいけど、面白そうだ。
あまりにも、くだらなすぎてバカバカしいのだが、思わず吹き出してしまう面白さがあることは確か。一時間程度で一気に読んでしまった。
たまにはこの手のおバカな本も清涼剤としていいかも。

「子役」、「昆布漁」、「痔」、「付き人」の章が特に笑えた。
各章が、実際に「ぬる~い地獄」にハマった経験を持つ人物と松尾とのインタビュー形式となっている。

「子役」の章は、『金八先生シリーズ』にレギュラー出演していた子役の藤田秀世という役者とのインタビューだ。子役界の仕組み・実体について語られていて面白い。
まさに階級社会。学生の体育会系の雰囲気漂うヒエラルキー社会だ。児童部、青年部などがあり、だんだん研究生、準劇団員、劇団員と階級がある。
児童部などは三歳程度がから入ることができるため、「いい歳してから入ったおじさんとかが五歳の子に『オハヨーゴザイマス!』とか挨拶しなきゃならない」という恐るべき世界。階級の違うもの同士が一緒になると、大変らしい。上の階級の者から「俺がセリフ二つ言っている時に、お前三つ言うんじゃねぇよ」なんてこともあるらしい。なんだか読んでいると、サラリーマン社会よりも歪な階級社会のように思える。世も末と言った感じだ。幼少からこのような世界にどっぷりと浸った人生を送っていると、まともな人間に育たないような。。。

「子役」の章でもう一つ面白かったのは、戦争物とか民衆劇、民族紛争物が多いという藤田のコメント。一体何故にその種の芝居が演じられることが多いのか。。。
その理由のバカバカしさに思いっきり苦笑した。
「とにかく出演者が多いから」といった理由なのだ。とりあえずいっぱいいる人を登場させる必要から、民族紛争もののダブルキャストとかもあるらしい。何というバカバカしさ。
オーディションの仕組みに係わることだが、藤田曰く、面接では「全国から集まった500人の中から、20人だけが選ばれることになる」などとカマされて、結局は全員受からせているという実態まであるらしい。
まあ、サラリーマン感覚でいえば、頭数が増えればそれだけ授業料稼げるわけですな。父兄の目もあり、入れた以上は、公演の際には役を与えないといけないということで、民族紛争物など多くのキャストを使っても不自然ではない芝居で多くの子役を登場させる。全くあきれてしまう。

「昆布漁」の章は最も笑えた。笑うに笑えない実態があるのだが、どうしても笑いを禁じ得ない。
この章のサブタイトルがまた大げさでおかしい。”昆布漁は逃げ道なしの奴隷地獄だった!”とある。
北原万誠というフリーの俳優が学生時代の頃体験したバイトについて、松尾とのインタビューの中で北海道での昆布漁バイトの実態を弱々しくも暴露していく。
豆知識として、なるほどと思わされたこと。取れた昆布は一等から六等まで仕分けされ、六等にも入ることができないものは「カス」と言われるらしい。そして実はこの「カス」が日本の家庭の食卓の多くて出されている(だろう)『ふじっこ煮』なのだという事実。
とにかく待遇が最悪らしく、契約で北原は45日間昆布漁を体験したらしいのだが、出される食事が朝昼晩「ごはん、納豆、味噌汁」だとのこと。日給3200円で早朝から夕方までこき使われて、唯一の楽しみの食事が毎回同じもの、それも超粗食。当然、夜逃げする者も多いらしい。プライベートな時間などほぼ無きに等しく、本すら読めない環境。間借りしている漁師の家では皆午後8時には就寝してしまうらしく、いつまでも電気をつけていると怒られるらしい。(電気代節約のため)

対談後の松尾のコメントに思わず爆笑を禁じ得なかった。曰く、「現代の野麦峠こんぶ漁の実態。『死体洗い』『バキュームカー洗い』等の「本当にあるのか」的レジェンド系バイトの一つと数えてもよいのではないだろうか。」

あまりにもくだらなすぎて、これ以上書いていくことに後ろめたさすら感じつつあるのだが、ストレス解消の意味も込め、最後に「痔」に関する章について、簡単に。

まさにバカバカしさの極みという感じの章だ。
実際にいぼ痔手術を体験した、これまた「昆布漁」で登場したフリーの俳優との対談。
松尾自身も痔持ちということで、妙に話が盛り上がっていて、私の馬鹿笑いに容赦なく拍車をかける。

特に松尾自身の以下のコメントはバカ笑いを誘う。
まずは、Politically Incorrectと取られかねない次の発言。「体に物を入れられると極めて「女」な気持ちになるね。肛門に指つっこまれて雄々しい気持ちにはまずならない(笑)。フェミニズムとかいうけど、あの人達はモノ入れたことないんじゃないかな。論理じゃなくて受け身にならざるを得ない機能を女は持ってるっていうか。男は痔とかにならないと「入って」は来ないもん。」

次に、私が図らずも最も馬鹿笑いさせられたパート:
松尾: 痔の痛みって、虫歯をガーッとやられる痛みと並べて五大痛みに入ると思うんですよ。そのうちの一つを制覇したというか、やってない人とは人間としての陰影が違うぞという気がしますね。ちょっと人格に陰が出来た。
北原: 人間としての層が厚くなったよっていう。
松尾: この痛みはやってないでしょみたいな。
北原: すごい特権もった感じしますよね。

あまりにもバカバカしくなってきたので、書くのをやめます。と書きながら再び爆笑している自分は一体。。。たまにはいいだろ。この種のおバカで笑える本も。
深夜にバカらしいお笑いの番組がよくあるそうだが、視聴者の気持ちがちょっぴり理解できるような気がした。
疲れ切った心と身体は、時に、バカバカしさに慰められるものなのである。
by gf777 | 2010-11-23 21:11 | 読書


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