人気ブログランキング | 話題のタグを見る

リルケ著 『若き詩人への手紙 若き女性への手紙』(高安国世訳)を読む‏

リルケ著 『若き詩人への手紙 若き女性への手紙』(高安国世訳)を読む‏_e0208346_22594087.jpgリルケというと、学生時代に『マルテの手記』を読んだ記憶がかすかにある。内容などは忘れてしまったが、このオーストリアの詩人の言葉から醸し出される雰囲気のようなものだけは微かに記憶に残っている。たまたま先日古本屋でこの書を見つけ、リルケという名前に懐かしさを覚え、手に取ることにした。

リルケはよく手紙を書いたことでも知られているらしく、知人や文学者、出版者、パトロンなどに宛てた膨大な数の手紙が刊行されているとのこと。
今回読んだのは、彼が残した膨大な書簡の中で、詩人志望の青年フランツ・カプスからの手紙に答えて文通の始まった『若き詩人への手紙』、子供との二人暮しを支えるために働きながらリルケの詩を読んでいた女性リーザ・ハイゼとの文通の集成である『若き女性への手紙』の二つが文庫にまとめられたものだ。
特に前者の『若き詩人への手紙』には、詩人を目指している青年へのアドバイス、芸術作品についてのリルケの考えが平易な言葉で語られており、彼の人と成りを知る上でとても参考になるだけでなく、生きていく上での一つの心構えとなるような示唆に富む考え方を多く含んでおり、読み応えがある。
以下、私の琴線に触れた言葉の一部を抜粋しておく:

あなたは外へ眼を向けていらっしゃる、だが何よりも今、あなたのなさってはいけないことがそれなのです。誰もあなたに助言したり手助けしたりすることはできません、誰も。ただ一つの手段があるきりです。自らの内へおはいりなさい。あなたが書かずにいられない根拠を深くさぐってください。

何よりもまず、あなたの夜の最もしずかな時刻に、自分自身に尋ねてごらんなさい、私は書かなければならないかと。深い答えを求めて自己の内へ内へと掘り下げてごらんなさい。そしてもしこの答えが肯定的であるならば、もしあなたが力強い単純な一語、『私は書かなければならぬ』をもって、あの真剣な問いに答えることができるならば、そのときはあなたの生涯をこの必然に従って打ち立てて下さい。

もしあなたの日常があなたに貧しく思われるならば、その日常を非難してはなりません。あなた御自身をこそ非難しなさい。あなたがまだ本当の詩人でないために、日常の富を呼び寄せることができないのだと自らに言いきかせることです。

必然から生まれる時に、芸術作品はよいのです。こういう起源のあり方にこそ、芸術作品に対する判断はあるのであって、それ以外の判断は存在しないのです。だから私があなたにお勧めできることはこれだけです、自らの内へおはいりなさい。そしてあなたの生命が湧き出てくるところの深い底をおさぐりなさい。その源泉にのみあなたは、あなたが創作せずにいられないかどうかの答えを見いだされるでしょう。

審美学的・批評的な物はできるだけ読まないようになさって下さい、―――それは生命の涸渇した冷酷さのなかで化石したような、無感覚な党派的見解か、さもなければきょうはこの意見、あすはその反対の意見が勝ちを占めるといった調子の、器用な言葉の遊戯にすぎません。芸術作品は無限に孤独なものであって、批評によってほど、これに達することの不可能なことはありません。ただ愛だけがこれを捉え引き止めることができ、これに対して公平であり得るのです。―――そのような議論や、批判や、解説に対しては、あなたはいつも自分自身と、あなたの感情とを正しいとお考え下さい。

それはすべての進歩と同じように、深い内部からこなければならぬものであり、何物によっても強制されたり、促進されたりできるものではありません。月満ちるまで持ちこたえ、それから生む、これがすべてです。すべての印象、すべての感情の萌芽は、全く自己自身の内部で、幽暗の境で、名状しがたいところで、無意識のうちに、自己の悟性の到達し得ないところで、安全に発育させるようにし、深い謙虚さと忍耐とをもってあらたな明澄さの生まれ出るのを待ち受ける、これのみが芸術家の生活と呼ばれるべきものです、理解においても創作においても。

あなたはまだお若い。すべての物事のはじまる以前にいらっしゃるのですから、私はできるだけあなたにお願いしておきたいのです、あなたの心の中の未解決のものすべてに対して忍耐を持たれることを。そうして問い自身を、例えば閉ざされた部屋のように、あるいは非常に未知な言語で書かれた書物のように、愛されることを。今すぐ答えを捜さないで下さい。あなたはまだそれを自ら生きておいでにならないのだから、今与えられることはないのです。すべてを生きるということこそ、しかし大切なのです。今あなたは問いを生きて下さい。そうすればおそらくあなたは次第に、それと気づくことなく、ある遥かな日に、答の中へ生きて行かれることになりましょう。

by gf777 | 2010-11-25 23:03 | 読書


読んだ本、見た映画・芝居などについて、思ったこと・感じたこと・考えたこと等を自由気儘に書き連らねています


by GF777

カテゴリ

全体
演劇
読書
映画
日記
読書会
告知
過去投稿記事の移行
未分類

以前の記事

2011年 07月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月

フォロー中のブログ

メモ帳

最新のトラックバック

ライフログ

検索

タグ

その他のジャンル

ブログパーツ

最新の記事

『悲しみよ こんにちは』 フ..
at 2011-07-17 22:46
阿佐ヶ谷スパイダーズ『荒野に..
at 2011-07-16 23:37
『ナインティーズ』 橋本治著..
at 2011-07-15 23:25
『ナインティーズ』 橋本治著..
at 2011-07-13 22:12
『存在の耐えられない軽さ』 ..
at 2011-07-09 23:17

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧